東京地方裁判所 平成5年(行ウ)20号 判決 1994年2月22日
東京都文京区湯島三丁目二九番二号
原告
大倉興業株式会社
右代表者代表取締役
大倉京斗
右訴訟代理人弁護士
佐野榮三郎
東京都文京区本郷四丁目一五番一一号
被告
本郷税務署長 中島常光
右指定代理人
久保田浩史
同
藤村泰雄
同
海老澤洋
同
大原豊実
同
江口庸祐
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告がいずれも平成二年九月二九日付けでした原告の昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度の法人税に係る更正のうち所得金額六、六四四万五七八七円を超える部分及び重加算税の額を一八六万二〇〇〇円とする同税賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は旅館業等を営む株式会社である。原告の昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき原告がした確定申告及び修正申告、被告が平成二年九月二九日付けでした更正(以下「本件更正」という。)及び重加算税の額を一八六万二〇〇〇円とする同税賦課決定(以下「本件決定」という。)並びに原告がした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は別表1に記載のとおりである。
2 原告は、本件更正のうち所得金額六六四四万五七八七円を超える部分及び本件決定に不服があるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1は認める。
三 抗弁
1 原告の本件事業年度に係る所得金額 七九一五万六二一一円
原告の本件事業年度に係る所得金額は、原告が修正申告において所得金額として申告した金額である六六四四万五七八七円(別表1に記載のとおり)に、後記2の原告が修正申告においてその借入金に係る支払利息の額であるとして損金に算入した金額一二七一万〇四二四円を加えた七九一五万六二一一円である。
2 原告が修正申告においてその借入金に係る支払利息の額として損金に算入した額
一二七一万〇四二四円
(一) 原告と原告代表者である大倉京斗(以下「大倉京斗」という。)は、昭和六二年一一月一〇日、株式会社つくば商事(以下「つくば商事」という。)からそれぞれの名義において二億六二五〇万円ずつを借り入れ(以下、右借入れのうち大倉京斗名義でされたものを「本件借入れ」といい、大倉京斗名義の借入金二億六二五〇万円を「本件借入金」という。)、それぞれの名義で日本電信電話株式会社の株式各一〇〇株(以下、日本電信電話株式会社の株式を「NTT株式」といい、大倉京斗の名義で取得された右株式一〇〇株を「本件株式」という。)を代金二億五五〇〇万円で購入し、同月一二日、それぞれ右借入金でそその代金を支払った。
(二) 原告は、本件事業年度に係る法人税の確定申告(その内容は別表1に記載のとおり)において「有価証券の内訳書」にNTT株式一〇〇株を二億五五〇〇万円で買い入れた旨を、「借入金及び支払利息の内訳書」に東海銀行飯田橋支店から二億六二五〇円を借り入れた旨(なお、貸主は正確には前記のとおりつくば商事であって東海銀行飯田橋支店ではない。)をそれぞれ記載し、これらの書面を確定申告書に添付して提出したが、その後の修正申告(その内容は別表1に記載のとおり)においては、本件借入金に対する支払利息の額を一二七一万〇四二四円(以下「本件支払利息」という。)と算定し、これを本件事業年度の法人税に係る損金に算入した。
(三) しかしながら、本件株式は大倉京斗が取得したもので、本件借入金はそのために同人が借り入れたものであるから、本件支払利息を原告の本件事業年度の法人税に係る損金に当たるとすることはできない。
このことは、大倉京斗が昭和六三年分の所得税の確定申告の際、「財産及び債務の明細書」にその財産として本件株式を含むNTT株式一七〇株を、その債務として本件借入金をそれぞれ記載し、「所得の内訳書」にその配当金収入として本件株式を含むNTT株式一七〇株に係る昭和六三年六月及び一二月の各四二万五〇〇〇円の配当金収入を、原告の配当所得の金額の計算上控除される負債の利子として本件借入金に係る支払利息一四二一万三八三五円をそれぞれ記載し、これらの書面を確定申告書に添付して提出したことからも明らかである。
3 したがって、原告の本件事業年度における所得金額は、右1のとおり、原告が修正申告において所得金額として申告した六六四四万五七八七円に本件支払利息の額一二七一万〇四二四円を加えた七九一五万六二一一円であり、これを基礎として適法に算定した原告の納付すべき税額は二九六七万〇八〇〇円(別表1に記載のとおり)であるが、原告は確定申告及び修正申告によりそのうち二四三四万六一〇〇円をすでに納付しているので、原告が新たに納付すべき法人税額は右納付済みの額を控除した五三二万四七〇〇円となる。
したがって、本件更正は適法である。
4 本件決定の適法性
(一) 原告は、簿外資金を捻出する目的で、その備付けに係る会計諸帳簿に、別表2の「修正事項」の「加算額」の欄に記載した加算項目を故意に記載せず、これに基づいて確定申告書を作成して提出し、また、昭和六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度において右と同様に加算項目を計上しない方法で生じさせた欠損金を本件事業年度の損金に算入し、もって、別表1のとおり本件事業年度の所得金額を過少に申告した(原告が右のようにして故意に申告しなかった所得の額は右加算項目及び欠損金不算入に係る額から別表2の「修正事項」の「減算額」の欄に記載の減算項目合計額を控除した額であって、その額は同表<4>欄に記載のとおり五一五七万四七四三円であり、これに対する納付すべき法人税の額は一九一〇万一二〇〇円(本件更正によって新たに納付すべきものとされた法人税額五三二万四七〇〇円を含む。)である。)。
これは、国税通則法六八条一項所定の「納税者がその国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に当たる。
(二) 国税通則法六八条一項及び同法施行令二八条一項によれば、重加算税の額を算定するについて、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、その事実のみに基づいて修正申告書の提出又は更正があったものとした場合におけるその申告又は更正に基づき国税通則法三五条二項の規定により納付すべき税額を過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額から控除した金額を基礎とすべきこととされている。被告が本件更正において加算額として計上した「支払利息の損金不算入」の額一二七一万〇四二四円並びに原告が修正申告において減算額として計上した「支払利息等認容」額一二七一万〇四二四円及び「事業税認定損」額五八五万八八〇〇円は、いずれも過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものであるが、右事実のみに基づいて修正申告書の提出又は更正があったものとした場合におけるその申告又は更正に基づき国税通則法三五条二項の規定により納付すべき税額はゼロとなるから、本件更正に係る重加算税の額の算定上、控除すべき金額は存しない。
(三) そうすると、原告の過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき額は、五三二万円(右3の本件更正によって新たに納付すべきものとされた法人税額五三二万四七〇〇円に国税通則法一一八条三項の規定による端数計算をした後の金額)であるから、本件更正に係る重加算税の額は、これに国税通則法六八条一項所定の一〇〇分の三五の割合を乗じた一八六万二〇〇〇円となり、本件決定における重加算税額は、これと同額であるから、本件決定は適法である。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実は否認する。
2(一) 同2(一)の事実のうち大倉京斗が本件借入金を借り入れ、これによって本件株式を取得したことは否認し、その余は認める。本件株式の取得及び本件借入れは、後記五のとおり、原告が大倉京斗の名義を借用して行ったものであって、大倉京斗が行ったものではない。
(二) 同(二)の事実は認める。
(三) 同(三)の事実のうち、大倉京斗が昭和六三年分の所得税の確定申告の際、「財産及び債務の明細書」にその財産として本件株式を含むNTT株式一七〇株を、その債務として本件借入金をそれぞれ記載し、「所得の内訳書」にその配当金収入として本件株式を含むNTT株式一七〇株に係る昭和六三年六月及び一二月の各四二万五〇〇〇円の配当金収入を、原告の配当所得の金額の計算上控除される負債の利子として本件借入金に係る支払利息一四二一万三八三五円をそれぞれ記載し、これらの書面を確定申告書に添付して提出したことは認め、その余は否認する。
3 抗弁3の主張は争う。
4 抗弁4の主張は争う。
五 原告の主張
1 法人税の所得金額の算定上、権利義務の帰属の判断は名義ではなく実体を基準としてされるべきものである。本件株式の取得及び本件借入れは、後記2のような経緯により大倉京斗名義で行われているが、実際にこれらの取引を行った主体は原告であり、本件株式及び本件借入金は原告に帰属するものである。したがって、本件支払利息は、原告の本件事業年度における損金に当たる。
2 本件株式取得の経緯
原告は、昭和六三年秋頃、NTT株式二〇〇株を取得しようとした際、山一證券株式会社上野支店の担当者から、NTT株式の引受けの募集に対しては多数の申込みが予想されるため、抽選が行われ、これに当選した者だけがNTT株式を取得できることになるが、原告が二〇〇株全部について自己の名義で応募すると、抽選にはずれた場合には一株も取得できなくなるおそれがあるので、原告名義だけでなく他人の名義も使って応募するよう勧められた。そこで、原告は自己名義の外、大倉京斗名義を借用して各名義で一〇〇株ずつ応募し、どちらも当選した。
NTT株式の申込当選者は、自己の名義で申込手続をしなければならず、かつ、取得した株式は他に譲渡してはならないこととされていたので、原告は原告名義及び大倉京斗名義で各一〇〇株ずつ払込等の申込手続を行い、各名義で一〇〇株ずつ合計二〇〇株を取得した。また、原告は、右購入の資金とするため、つくば商事から合計五億二五〇〇万円を借り入れたが、その際、担保として右NTT株式二〇〇株をつくば商事に供し、担保に供した株式の名義と借入金の名義を一致させるため、右借入金のうち二億六二五〇万円については大倉京斗名義を借用して借入れを行ったのである。
原告は、本件株式取得後も、配当金の受領や確定申告については、株式の名義を基準とした処理をしたので、本件株式の配当は株式の名義人である大倉京斗が受領し、また、本件株式の取得及び本件借入れは大倉京斗の所得税の確定申告において大倉京斗が行った取引として申告されたが、配当の受領や確定申告においてこのように名義に従った処理をしたからといって、本件株式及び本件借入金の実質的な帰属主体が変わることにはならない。
3 本件株式及び本件借入金が原告に帰属するものであることは、次のとおり原告に修正申告を促した東京国税局査察部第二七部門がこれを認めていたことからも明らかである。
原告は、平成元年四月二七日から平成二年五月二一日までの間、東京国税局査察部第二七部門による強制調査を受け、その際、担当の国税査察官から、原告の確定申告には売上の計上漏れがあること、原告が計上しなかった売上は、主に、原告が昭和六二年七月から同六三年一〇月にかけて購入したNTT株式二二五株(本件株式を含む。)の購入代金又はその購入代金に充てた借入金の利息の支払に使われたこと及び右の計上漏れの売上金を出捐して取得された株式は、原告の名義で取得していなくても、いわゆる借名取引により取得した株式として原告に帰属することを指摘された。
そこで原告は、右指摘に即し、平成元年九月二〇日、東京国税局査察部第二七部門に対して、昭和六二年一一月一〇日から同六三年一〇月二〇日までの間に原告が取得したNTT株式二二五株(本件株式を含む。)はその名義の如何を問わず原告に帰属する旨を記載した上申書を提出した。更に、原告が同部門に対して、本件支払利息を損金として計上した修正申告をする予定である旨を伝えたところ、同部門は、原告に対して、修正申告の際には、原告から大倉京斗に対する貸付けに関する書類と右貸付けを承認した原告の取締役会議事録を作成して提出するように指示した。
右のような同部門の対応から明らかなように、同部門は、原告が修正申告において本件株式は原告に帰属するものであるとすること及び本件支払利息を原告の本件事業年度に係る損金に算入することを認めていたものである。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一本件更正の適法性について
一 請求原因1の事実、抗弁2(一)のうち大倉京斗が本件借入金を借り入れ、これによって本件株式を取得したことを除くその余の事実、同(二)の事実並びに同(三)のうち大倉京斗が昭和六三年分の所得税の確定申告の際、「財産及び債務の明細書」にその財産として本件株式を含むNTT株式一七〇株を、その債務として本件借入金をそれぞれ記載し、「所得の内訳書」にその配当金収入として本件株式を含むNTT株式一七〇株に係る昭和六三年六月及び一二月の各四二万五〇〇〇円の配当金収入を、原告の配当所得の金額の計算上控除される負債の利子として本件借入金に係る支払利息の額一四二一万三八三五円をそれぞれ記載し、これらの書面を確定申告書に添付して提出した事実は当事者間に争いがない。
二1 原告が、本件事業年度の確定申告において計上しなかった売上金の中から本件支払利息の支払のために一、二七一万〇、四二四円を支出したことは被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなされる。本件の争点は、右支出が原告の借入金に係る利息の支払として損金の支出に当たるかどうかという点であり、この点を判断する前提として本件借入金の帰属を明らかにする必要がある。
本件借入れが大倉京斗の名義によってされていることは右一のとおり当事者間に争いがない。一般に権利義務の帰属主体は必ずしもその名義人に一致するとは限らないことは周知のところではあるが、その帰属主体と名義人との一致する場合の多いことも一般に承認されているところであろうから、本件借入れの名義人が大倉京斗であるという事実は、その借入れに係る金員の帰属主体も同人である蓋然性が高いことを示すものということができる。
2 右のことに、右一の当事者間に争いのない事実、成立に争いのない乙第一、第四、第五号証及び証人立花丕顕の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実が認められる。
大倉京斗は、昭和六二年頃、親交のあったつくば商事役員の日置勝巳との間で、原告とつくば商事とが共有する座間市相武台所在の土地と建物を担保に東海銀行飯田橋支店から購入資金を借り入れてNTT株式を購入することを合意した。日置は、つくば商事と原告の名義でNTT株式を二〇〇株ずつ、合計四〇〇株の割当てを受けられるように丸万証券株式会社東京支店に手続を依頼し、同店から合計四〇〇株の割当てを受けられることになったとの回答を受けた。その後、大倉京斗が原告名義で取得する予定であった二〇〇株のうち一〇〇株を大倉京斗の名義で取得することにしたため、NTT株式四〇〇株の名義の内訳はつくば商事名義で二〇〇株、原告名義及び大倉京斗名義で各一〇〇株ずつとなった。つくば商事は、原告を保証人とし、購入したNTT株式を担保として、東海銀行飯田橋支店から一〇億五〇〇〇万円を借り入れ、原告はそのうち二億六二五〇万円をつくば商事から自己の名義で借り入れた。大倉京斗名義による本件借入れは、右借入れと同時に行われ、右借入金及び本件借入金を購入資金として、原告及び大倉京斗の各名義でそれぞれ一〇〇株ずつのNTT株式が購入された。
原告は、NTT株式取得後、本件事業年度に係る確定申告において、原告名義によるNTT株式一〇〇株の取得及び原告名義によるつくば商事からの二億六二五〇万円の借入れを申告したが、本件株式の取得及び本件借入れは申告しなかった。一方、大倉京斗は昭和六三年分の所得税の確定申告において本件株式を自己の財産とし、本件借入金を自己の債務とし、本件株式の配当金収入を自己の収入とし、本件借入金に係る支払利息を自己の必要経費として申告した。
本件株式の配当金は、平成元年九月頃まで、大倉京斗が有する銀行口座に振り込まれ、それまでの間、原告が大倉京斗に右配当金を支払うよう求めたことはなかった。
以上の事実が認められるところ、これらの事実によれば、本件借入金は、大倉京斗が個人で本件株式を購入するために自ら借り入れたものであり、原告に帰属するものではないと認められる。
3 これに対して、原告は、本件株式の取得及び本件借入れを実質的に行ったのは原告であって、これらの取引が大倉京斗の名義で行われたのはNTT株式を確実に取得するために名義を借用したためであると主張する。
しかしながら、右2のとおり、大倉京斗が原告名義で取得する予定であったNTT株式二〇〇株のうち一〇〇株を大倉京斗の名義で取得するよう予定を変更したのは、原告名義で二〇〇株の割当てを受けられることが明らかになった後のことである。そして、前掲の乙第五号証によれば、いったん丸万証券株式会社東京支店から割当てを受けられるという回答があった以上、原告名義で取得する予定であった二〇〇株の割当てを減らされるおそれはなかったことが認められる。そうすると、原告がNTT株式を確実に取得するために二〇〇株のうち一〇〇株について株式引受申込みの名義を大倉京斗に変更する必要があったとはいえないから、原告の右主張事実を認めることはできない。
4 また、原告は、原告を強制調査した東京国税局査察部第二七部門の担当係官が本件支払利息は原告の損金に当たると認めたことからも、本件支払利息が損金に当たることは明らかであると主張する。
ある支出が損金に当たるか否かを決定するについては、査察を担当した係官がこれについてどのように判断しどのような指示をしたかが一つの拠るべき事実となるということができる。しかしながら、税務を担当する係官であっても判断を誤ることが全くないとはいえないから、このような事実が存在するからといって直ちにある支出の性質が決定できることになるわけではない。しかも、本件にあっては、以下のとおりその主張のような事実も、これを認めることができない。
すなわち、原告は、右強制調査の期間中、同部門に本件株式を含む他人名義のNTT株式が原告に帰属するものであるとする上申書(甲第一一号証)を提出しているものであるが(右事実は、当事者間に争いがない。)、成立に争いのない乙第二号証によれば、同部門の担当係官において原告に対しそのような趣旨の上申書を提出するような指示をしたことはないし、その他本件株式が原告に帰属するとの見解を示したり、これを前提とする指示を原告にしたこともなかったものであって、むしろ同部門の担当係官は右上申書を検討した結果、本件株式は原告ではなくその名義人である大倉京斗に帰属するものであるとの結論に至ったことが認められる。また、同号証及びいずれも成立に争いのない甲第二号証ないし第一〇号証によれば、同部門の担当係官は原告が確定申告において計上しなかった売上金及びその使途について、申告すべき内容を確定申告書用紙等に書き込み、これを原告の税理士に提示して、そのとおりの内容の修正申告をするように促したが(その内容を原告の税理士が朱字で書き移したものが、甲第二号証ないし第一〇号証である。)、そこでは本件支払利息は損金に算入されてはおらず、その後、原告が右指示内容とは異なる本件支払利息を損金に算入した修正申告をしたことが認められる。右のように認められる原告と同部門の担当係官との間の交渉の経緯からすれば、同部門の担当係官が本件支払利息を原告の損金に当たるものと認めたことがあったとは到底認められない。
なお、証人立花丕顕の証言中には、右上申書は大倉京斗が査察を担当する係官にそのような文書を提出するよう求められたため提出したものであるとする部分が存するが、前掲の乙第五号証によれば、同部門の担当係官は原告の経理担当者である立花丕顕から、このような上申書を提出した理由について事情を聴取し、質問てん末書(乙第一号証)を作成していることが認められる。そして、同部門の担当係官が自ら上申書を提出するよう促したのであれば、その提出の理由についてこのような質問てん末書を作成することが必要であると考えることはあり得ず、このことからすれば、証人立花丕顕の右証言は採用することができない。
三 右二のとおり、本件支払利息は、大倉京斗の株式購入のための借入金に係るものであって、原告の借入金の利息に係るものではない。
そして、前掲の乙第二号証並びにいずれも成立に争いのない甲第一二号証及び第一三号証によれば、査察部の担当係官は、原告に対する強制調査の際、原告が確定申告において計上しなかった売上金のうち本件支払利息の額を含む一億六五八三万二〇九五円が原告の大倉京斗に対する貸付金であると判断し、修正申告において右金額を右のように貸付金とすることを促したが、原告は修正申告においては右の勧めの全部にそのまま従うことをせず、本件支払利息の額一二七一万〇四二四円を差し引いた額一億五三一二万一六七一円のみを貸付金の額として計上し、査察部の係官に対しても右金額のみを貸付金額とする原告と大倉京斗との間の金銭借用証書(甲第一二号証)及び貸付けを承認する旨の原告の取締役会議議事録(甲第一三号証)を提出したことが認められる。
以上のような査察部の担当係官と原告との交渉の経緯からすれば、原告が本件支払利息の支払のためにした支出は大倉京斗に対する貸付けであると推認することができるから、右支出に係る金員は原告の会計処理上、貸付金として処理されるべきものであって、損金に当たるとすることはできないものというべきである。
したがって、原告の本件事業年度の所得金額は、原告が修正申告において所得金額として申告した六六四四万五七八七円に本件支払利息の額一二七一万〇四二四円を加えた七九一五万六二一一円であり、原告の本件事業年度における納付すべき法人税額はこれを基礎として算定した二九六七万〇八〇〇円となるが、原告は確定申告及び修正申告においてそのうち二四三四万六一〇〇円をすでに納付しているから、原告が新たに納付すべき税額は五三二万四七〇〇円となる。本件更正における所得金額及び納付すべき税額は右各金額と同額であるから、本件更正に違法はない。
第二本件決定の適法性
原告が別表2の「修正事項」の「加算額」の欄に記載された加算項目を故意にその備付けに係る会計諸帳簿に記載せず、これに基づいて確定申告書を作成し提出したこと並びに昭和六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度において右と同様に加算項目を計上しない方法で生じさせた欠損金を本件事業年度の損金に算入し、もって本件事業年度の所得金額を過少に申告したことについては原告は積極的には争っておらず、原告が右加算項目を加算した欠損金の当期控除を行わないことを内容とする修正申告をしたことを前提とする主張をしていること等の弁論の全趣旨によれば右事実はこれを認めることができる。
この事実は、国税通則法六八条一項所定の「納税者がその国税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に当たるものと認められ、原告は、同条一項及び同法施行令二八条一項の規定によって計算された額の重加算税を納付すべきこととなるが、その額は、抗弁4(二)及び(三)記載のとおりの算出経過によって一八六万二〇〇〇円となり、本件決定における重加算税額は、これと同額であるから、本件決定に違法はない。
第三結論
以上の次第で、本件更正及び本件決定にはいずれも違法がなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 橋詰均 裁判官 武田美和子)
別表1
本件更正処分等の経緯
自昭和六二年一〇月一日至昭和六三年九月三〇日 事業年度分法人税
<省略>
別表2
<省略>